コレクション紹介(8)
小松庄次郎氏の蝶コレクション

諏訪 哲夫

最終更新日:2007年9月19日



 昨年、造園会社にお勤めの小松さんと仕事の関連でご一緒したとき、小松さんから次のようなお話を頂いた。「諏訪さんは蝶のことをいろいろやっておられるようですが、私は今は植物に関心が移っていますが、実は高校生のころ蝶の採集をしていました。南アルプスなどにも出かけ、そこでオオイチモンジを採ったこともあります。」ということだった。そこで私はオオイチモンジをはじめ採集された標本はどうなっていますか。とお聞きしたところ、「富士宮の実家に置いてはあるが今それがどうなっているか分からない。」ということだった。そこで是非早いうちに標本の状態を確認してくださいとお願いした。

 それから少し経って、小松さんから標本は大丈夫であること、さらにこの標本すべてを寄贈してもかまわないとのご返事を頂いた。4月はじめ、標本を譲り受けるため富士宮にある小松さんのご実家にお邪魔した。標本は桐の箱10箱に入れられ、きちんと梱包して、二階の部屋の天袋に収納されていた。中の標本は虫やカビの被害を受けていず、完璧に保存されていた。標本数は約700頭である。

 これらの標本を整理していくと大変貴重な標本が数多くあることが分かってきた。まずなんと言っても筆頭はオオイチモンジである。この蝶は本州では中部山岳地の高山の渓流沿いに住むいわゆる「高山蝶」である。静岡県では今までに報告された確実な記録は目撃を含めて7件で、このうち採集された個体は4頭だけである。未発表の記録がいくつかあるようだがそれを合わせても10頭にはならないだろう。

 これらすべて大井川の源流二軒小屋を中心とした地域に限られた記録である。最後の正式の記録は1966年でちょうど40年間発見されていない。県のレッド・データでは絶滅危惧TAとなっているが今では絶滅した可能性が高い。この標本はメス2頭で、データは1968年7月25日と1970年7月25日である。採集地はいずれも二軒小屋から1kmほど下った千石沢となっている。

 このほか注目すべき標本を列挙すると、今は全くいなくなってしまった富士宮市沼久保のギフチョウ、富士山のみに生息するが減少著しい小山町須走のヒメシロチョウとヤマキチョウ、静岡県内でまだ10頭も採集されていない大井川源流のカラスシジミ、静岡県からおそらく絶滅したと思われる朝霧高原のアサマシジミ、県東部の分布地域からは絶滅に近い状況の裾野市岩波のウラナミジャノメなど1960年代終わりから1970年にかけて採集された極めて貴重な標本が多い。

 これらの標本はかつての豊かだった自然環境を知るうえで貴重な資料であるので、大切に保存し活用されることが期待される。

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登録日:2007年9月19日


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