コレクション紹介(6)
故稲葉 茂氏の蝶類標本

諏訪 哲夫

最終更新日:2007年9月20日



 県庁の土木畑の職員であった稲葉茂氏は1982年退職後、建設会社に再就職されたが5年後の1987年8月逝去された。享年60歳の若さであった。

 氏は学生時代に蝶の採集を始め、標本を所有していたが、その後仕事の多忙さなどから蝶の採集は中断し、標本も失われてしまった。県庁の土木部に蝶の好きな職員が2名いたこともあって、1970年代のはじめごろから再び蝶の採集をはじめた。県内各地はもとより、山梨県、長野県、沖縄などに頻繁に採集に出かけ、ついにはネパール、マレーシアまでも足を伸ばした。この間にいくつかの貴重な記録を発見し、静岡昆虫同好会の会誌に発表している。その中で特筆すべき記録は、分布しているとは当時誰も考えていなかった富士山本体からのスギタニルリシジミの発見や、今までに本県で10頭は採集されたことのない極めて稀なジョウザンミドリシジミを富士山の西麓で発見したことなどである。

 また、ご自身では採集に出かけるのは困難な外国の地域の種については購入することによってコレクションを増やしていった。中国奥地の極めて珍しいウスバシロチョウの仲間やニューギニアの高地に生息する大きくて大変美しいトリバネチョウの仲間などである。これらの蝶は本物を身近で見ることは困難なものばかりである。所蔵しておられた標本はドイツ箱で100余箱、国内産約3300頭、外国産約2000頭であった。

 これらの貴重な標本が散逸、あるいは消滅してしまうことは誠に忍びないことであったので、前述の職員の内の1名と私が企画部に要請した結果、こどもの国が完成したらここに保管、展示するということで県で購入していただくこととなった。県が購入するためには額を決めるための評価をしなければならなく、そのためのリスト作り作業が大変であった。コンピュータのない時代すべて手書き、少人数で行ったため、2年近くかかったように記憶している。

 こどもの国が完成するまでの間、標本を保管する場所が課題であったが、昆虫を研究している職員もいる浜北にある県林業技術センターにお願いすることとなった。その後、こどもの国の計画が見直され、昆虫標本などを保管し展示するスペースとれなくなったことから保管は現在に至るまで、約13年間林業技術センターにお願いしてきた。

 県の自然学習資料保存事業が軌道に乗り、保管場所も三島から清水へ移動してスペースも狭いながらも確保できたこと、林業技術センターも業務の傍ら管理していただくのには何かと限度があること、また自然学習資料としてすでに受け入れた標本と一体的に扱えば、学術的資料としてまた展示の材料として役に立て易いことなどから移動を希望していたところである。

 このたび関係する部局の方々のお骨折りにより清水に移動することが決まり、さる7月25日に移動を終えた。この標本は8月21日から1週間NPO静岡県自然史博物館ネットワークが開催した「ミニ博物館」展の展示にさっそく活用することがきた。

 この標本の評価はすでに終了しているが、今後、他の評価済みの昆虫標本と同様、受け入れラベルの作成、データベースへの入力を行っていく予定である。


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登録日:2007年9月20日


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