施設見学と自然観察会報告
表富士西臼塚の散策と
裾野市立富士山資料館の見学

及川 忠広

最終更新日:2007年9月20日



 平成15年10月15日、秋の富士山における自然観察会として表富士西臼塚の散策、施設見学として裾野市立富士山資料館の訪問を実施しました。

 当日は雨の予報も出ていましたが、集合時刻ではまだ薄曇りの天候。紅葉はまだ本格的には始まっていなかったものの、間近に見える富士山の偉容に驚きつつ、杉野先生のガイドで西臼塚の遊歩道を散策しました。

 西臼塚は、富士山の寄生火山ともいえる小噴火口の跡地であり、まるで鉢かクレーターのように陥没した古い火口が見られます。周囲はカエデの仲間、ブナなどの林となっており、三宅先生のガイドによればシカやモグラ、ネズミなどのほ乳類の気配も強く、カラ類、カケスなどの野鳥の声も聞かれました。

 集合した会員は、杉野先生より紅葉の仕組みについてうかがい、レジュメによってカエデの仲間の葉の見分け方もおさらい。遊歩道の両脇に生えるホソエアザミなどの野草、ミズキ、ホオノキ、サンショウバラなどのさまざまな樹木についてレクチャーを受けながら林の中を歩きました。

 林の土壌は豊かなようで、倒木の上にはコケが生え、多数の種類のキノコも顔を出していました。また、どこの地面や木の幹にも多くの種類のザトウムシが見られました。ひじょうに長い脚でゆらゆらと移動するザトウムシの姿はユーモラスでカメラに収めている会員もおりました。

 途中、杉野先生はサンショウ、ゴマキなどの葉をつみ取り、その香りを紹介して下さいました。また、会員が拾ったカエデの葉や種についても解説していただきました。

 林の中には多数のモグラ塚が見られ、ネズミのトンネルの口も見られました。また、シカの足跡も多く見られ、この一帯に多くの個体が生息していることがうかがえました。

おまけにシカのふんも発見でき、樹木の根本にはシカたちが歯で表面をそぎ取って食べた跡も見られたほどです。
 西臼塚の噴火口跡は、まるで小さな富士山火口そのもので、小高い斜面を登り切ると、その向こう側が数十メートルと落ちくぼんだ地形をしています。火口の縁には樹齢300年ともいわれるミズナラの大木が生えています。山の神として祭られており、祠もありました。

 西臼塚の観察を終え、昼食ののちには水ケ塚公園に移動。遊歩道の散策し、裾野市立富士山資料館へと向かいました。

 富士山資料館のテーマはひじょうに明快で、富士山と周辺地域における自然史、民俗資料の収集とに絞ってあります。自然史と民俗の両方をテーマとしているため、富士山の火山活動を示す溶岩やコア・サンプル、動物の剥製、頭骨、または富士山頂測候所の職員たちの記録、古民具、歴史文献、祭事資料に至るまでを収集していますが、そのほとんどが一次資料であることが特徴的といえます。展示方法はいささか古いことは否めませんが、レプリカや模型、モニターでの再生映像、科学館でよく用いられる電気機器的な展示をいっさい使用しないことが、新設博物館ばかりを見慣れた目にはかえって新鮮で驚きでもあります。これは一次資料の収集がいかに重要で、その価値が計り知れないことを如実に語っていると思われます。その収集資料は裾野市の広報紙でも毎月紹介されており、江戸時代にしとめられたニホンオオカミの頭骨、富士山頂測候所の気象レーダードームのパネル、測候所職員が山頂で収集した昆虫の標本などが報じられていました。

 ニホンオオカミの頭骨は、裾野市のみならず全世界的にも貴重な資料であり、その由来を記した古文献と共に歴史民俗資料としても価値の高いものと思われます。

 展示館と展示館とをつなぐ通路の窓が紙製の目張りで覆われていました。しかし、そこにはのぞき窓が開けられており、窓外には野鳥のための餌台が設置してありました。きわめて簡単な野鳥観察施設といえ、周囲の環境に恵まれれば他所でも設置可能な展示といえるでしょう。

 当日、期間展示として、火山活動とその被害に関する展示がありました。過去、富士山や浅間山の噴火で近隣の村々が被った被害を紹介していました。また、会員たちの大きな関心を呼んだのが、神奈川県立地球博物館の新井田学芸員製作による地形鳥瞰図でした。これは地球観測衛星ランドサットの収集したデータなどをもとに、各種のソフトによって描かれた地形CGであり、高低差にディフォルメをかけることによってより地形の形状を分かりやすくした画像です。あたかも高度数千メートルの空から伊豆半島や富士を見下ろしたかのような現実感あふれるポスターは、地球博物館でも人気となったとのことです。自然博ネットの会員は、来年のミニ博物館でこの地形図が展示できたら、とも語り合いました。

 富士山は、静岡と山梨のみならず、全世界にもアピールできる自然の宝庫です。近年、さまざまな荒廃の実態が明らかになっていますが、これらの破壊をくい止めるべく、自然の豊かさ、大切さを記録、アピールしてゆくことも博物館に課せられた任務のひとつといえるでしょう。

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登録日:2007年9月20日


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