自然観察会報告
袋井−掛川化石採集会
−200万年前の海底へ−

延原尊美


最終更新日:2004年9月21日


飛鳥の露頭で化石採集の説明をする延原氏 露頭にのぼって化石採集
化石採集に熱中 化石がたくさんとれたよ!

  7月25日(日)午前10:30、ときおり激しい雨が降り込む曇天のもと、大人29名、小中学生18名が袋井市役所玄関前に集合、バス2台に乗り込み、袋井市から掛川市一帯に広がる200万年前の海底へと出発しました。200万年前の静岡は現在よりもずいぶんと暖かく、海は現在の海岸線よりもずいぶんと内陸まで侵入していました。当時この一帯の沿岸域に堆積した地層は掛川層群と呼ばれ、絶滅種を含む数多くの種類の貝化石が産出することで昔から有名です。温暖化した200万年前の海底には、どのような生き物が暮らしていたのでしょうか? 筆者と東海大学自然史博物館の柴 正博先生をガイド役に、地層見学と化石採集を親子で体験していただきました。

 なお、今回の野外自然観察会は、袋井市在住の化石収集家・田邊 積さん主催の「静岡県の化石展」(袋井市役所市民ギャラリー)とタイアップした形で企画されました。かけがえのない化石標本の語る自然史のおもしろさや大切さをより深く知ってもらえたらと思い、会員外にも一般参加を募りました。夏休みに入ってすぐの日曜日ということもあって、応募は地元袋井・掛川を中心に定員40名を遙かにこえる参加申し込みがあり、郷土の自然史に対する市民の関心の高さを実感しました。

 バスはまず袋井市大日の宇刈川源流域に近い丘陵地に到着。ここでは、水田奥の沢ぞいに砂やれきからなる地層の断面が観察できます。この地層は大日層とよばれ、多くの貝化石を産出することで有名です。貝化石の中には現在では熱帯域にしか生息しないものや多くの絶滅種も含まれており、ここでは特に、バイ類、ミクリガイ類、キリガイダマシ類、キサゴ類に属する絶滅巻貝類を容易に得ることができました。「絶滅してしまった種」であることを強調するため、「スーパーで売られているナガラミ(ダンベイキサゴのこと)とこの化石とを比べてごらん」と子どもたちにアドバイス。化石標本から現在の生き物を見直す機会をもつことは、自然史のおもしろさを深める上でも大切です。お父さん・お母さんの中には、「あーっ、あの貝か・・・」と思い出される方も・・・そのとき、貝化石は単なる貝殻ではなく、ひとの心の中で古生物として生命が吹き込まれるのかも知れません。

 大日で1時間半ほどの化石採集を終えて、掛川市のいこいの広場でトイレ休憩と昼食。屋内にはいってしばらくすると猛烈な雨。午後の採集を心配しましたが、なぜか出発時には雨がやむという幸運。どなたか心がけのよい参加者の方がおられたようです。

 午後は13:30から15:00まで、掛川市飛鳥の工事現場にて化石採集。あらかじめ許可を得ているが、重機等へは近づかないよう注意とお願い。飛鳥では、砂の層からなる大日層とその上に重なる砂泥からなる宇刈層が観察されます。大日層がたまった時代から宇刈層がたまった時代へと向けて、やや海が深くなっていった様子を簡単に説明後、再び化石採集に挑戦。午前中の産地と異なり、ここでは保存の良い大きな二枚貝を数多く得ることができ、パンダフミガイなどの絶滅種を得られて、俄然ハッスルする子どもたちの姿が印象的でした。また、今回はふるいを持参された方も多く、小さな化石についても丁寧に採集されているお父さん・お母さんの姿も目立ちました。「おおもの狙い」になりがちな子どもたちの標本とあわせると、化石群集の全体像をつかむのにちょうど良い標本セットが親子で得られたのではないでしょうか? 採集方法をいろいろと変えてみるのも化石採集を楽しむためのコツであるということを実感しました。

 季節柄、全国的に頻発していた熱中症が心配されましたが、曇天が幸いして子どもたちもばてた様子はありませんでした。ただし、皆さん化石採集を始めると時のたつのを忘れるようでたちまち1時間半が経過(現場では、化石熱中症と呼ばれていました)。15:00にタイムアップとなり、用具等の片づけ。バスに全員が乗り込んだとたん、またも突発的豪雨。天気の神様のご配慮に感謝。15:30に袋井市役所に到着。田邊 積さん主催の「静岡県の化石展」を見学後、解散しました。


 化石を現場で採集しながら、親子で郷土の自然史を実感できるような機会を提供でき、まずはこの化石採集会は成功であったと思います。アンケートで意見をよせていただきましたが、おおむね好評で、「ふるさとの再発見となった」という声から「親子参加できるようなこのような自然史関係の観察会をまた企画していただきたい」との強い要望もよせられました。ただ、「採集した化石の保管等に関してもう少し教えて欲しかった」、「化石の名前を調べたいが、いただいたパンフレットはフィールドワークでぼろぼろになってしまった」との声もありました。今後の企画の際に考慮させて頂きます。

 今回の企画にあたり、袋井市教育委員会学校教育課のみなさまには、市民への広報やバスの運行などさまざまなサポートをいただきました。掛川市教育委員会のみなさまには、広報やいこいの広場での休憩の際に便宜をはかっていただきました。また、後藤興業さまには化石採集現場での便宜をはかっていただきました。最後になりましたがここに記して感謝の意を表します。


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登録日:2004年9月21日

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