静岡県の昆虫 (5)

ラミーカミキリ

平井克男


最終更新日:2004年6月25日



ラミーカミキリ

  レッドデータブックにみられるような、棲息の危機にある昆虫が実に多い中にあって、現在なお分布域を拡大し続けている昆虫もいます.そのひとつがラミーカミキリというカミキリムシです.体長は1.5pくらいで、上翅は青緑色か黄緑色に黒の斑紋のある美しい色彩をもつ「動く宝石」と呼ぶにふさわしい種類です.ラミーカミキリは江戸時代後期のまだ鎖国の続いていたころ中国から長崎に侵入し、以降日本の各地に広まっていったと言われる外来昆虫です.現在は、中国、ベトナム、関東以西の日本各地に分布しています。

 成虫はラミー、ムクゲ、ヤブマオ、カラムシなどの植物の生葉や茎を後食し、雌は寄主植物の葉や茎に産卵します。幼虫は根に入り、5月から7月に成虫がこれらの植物の葉上でよくみられるようになります。

 多数のラミーカミキリによる後食のためカラムシがしおれ、葉の裏の白い部分をよくみせていることがあります。カラムシは茎を蒸して皮をはぎとり、その繊維で上質な織物がつくられ、夏の衣服として利用されてきたためか、人里に近い山道脇によくみられる植物です。また、チョウのアカタテハの食草として知られています。花がきれいなムクゲも家の庭木として、あちこちに植えられています。このため、ラミーカミキリは人里近くで少し注意してみると普通に観察できます。しかしながら、1980年代以前の静岡県内での棲息記録は見あたりません。そこで、どこからいつ頃静岡県に入ってきたのかをいろいろ調べてみました。

 すぐ隣の神奈川県東部の湯河原、小田原では1979年より記録が増え始めましたが、県内では1981年熱海市の記録が最初で、その後1990年代に入って県東部から中部にかけて逐次記録が現れ始めます。1990年に賀茂郡東伊豆町、田方郡大仁町、駿東郡小山町で、1991年に庵原郡由比町で、1992年に庵原郡蒲原町、富士川町で、1992年に(旧)清水市で、1996年に静岡市、焼津市で確認されました。以降、県中部地区を中心として調査を実施してみたところ、静岡市安倍川流域では、カラムシのある上流域の静岡市新田まで下流域から確認でき、大井川流域ではカラムシのある寸又峡温泉、本川根町、中川根町、島田市でも確認されました。県西部でも1990年代以降、浜松市、天竜市、引佐町、水窪町などで確認されていますが、これらは愛知県から入りこんできたかもしれません。

 地球の温暖化が言われている昨今、ラミーカミキリの寄主植物のカラムシ、ムクゲは減少する植物とは思えませんし、この暖帯系カミキリムシの分布域は更に拡大していくものと思われます。

カラムシ群落


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登録日:2004年6月25日


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