静岡県の昆虫(2)
桶ヶ谷沼のベッコウトンボ

福井 順一(野路会・桶ヶ谷沼を考える会)

最終更新日:2003年10月28日




 ベッコウトンボはトンボ科に属する中型種で、羽の斑紋と体色がべっこうに似た茶褐色〜黒褐色であるためにこの名があります。成虫は4月から6月の春季に池沼に出現します。国内では宮城県以南の本州、四国、九州に分布していましたが、各地で減少・絶滅が相次ぎ、既に絶滅してしまった都府県が多いため、現在では極端に遺存的な分布となっています。

 特に1980年代〜90年代にかけては衰退が顕著で、中部以東の本州の都県では静岡県を除いてすべて絶滅し、近畿以西の本州と四国でも兵庫、山口両県以外では姿を消しました。このため環境省レッドリストで絶滅危惧T類に記載されるとともに、1994年3月には「種の保存法」の国内希少野生動植物種の指定を受け、採集や標本の譲渡が制限されています。

桶ヶ谷沼 静岡県内では、かつてはほぼ天竜川下流付近にあたる6市町に生息記録がありましたが、現在では磐田市以外では確認できなくなっています。このため残された磐田市の桶ヶ谷沼・鶴ヶ池の産地は本州の中部地方以東では唯一の生息地となってしまいました。桶ヶ谷沼は、ベッコウトンボの安定多産地として静岡県自然環境保全地域に指定され、環境保全がはかられてきました。

 行政、地元と保護団体で構成する「桶ヶ谷沼管理運営委員会」は、県・市の予算で運営され、植生管理、観察路の整備などの直接的な保全活動の他に、動植物の現況調査を継続して行っています。このような委員会が設置され保全の取り組みがなされているのは、本種が残っている生息地の中でも桶ヶ谷沼だけで、全国の先進的モデルとなっています。

 安定して多産を続けてきた桶ヶ谷沼ですが、ここ数年はアメリカザリガニの大発生によって発生数が激減し、絶滅の危機が訪れています。もちろんすぐに対策も立てられ、1999年夏からは、一般市民に参加を呼びかけて、「ザリガニ釣り」による大規模な捕獲作戦を行われ、その夏だけで約2万頭が捕獲されました。

 捕獲作戦は翌年2000年以降も続けられて恒例行事になってきましたが、まだアメリカザリガニの個体数は多いため、食害を受けた沼の水生植物などは回復していません。この他に本種の個体群を維持する対策として、産卵誘致による増殖法を行うこと、及び生息地の孤立化を防ぐ対策を立てることも並行して推進していきたいと考えています。


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登録日:2003年10月28日


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