静岡県の植物(1)
静岡県で発見されたキョウマルシャクナゲとアマギシャクナゲ

杉野 孝雄

最終更新日:2003年7月5日

アマギシャクナゲ キョウマルシャクナゲ


  静岡県には南アルプスと富士山にハクサンシャクナゲ、南アルプスにキバナシャクナゲ、天竜川以西にエンシュウシャクナゲ、天城山にアズマシャクナゲが知られていました。1964年に東京大学の山崎敬博士は、アズマシャクナゲとホンシャクナゲの分布の接点になる静岡県西部で、中間的な性質を持つシャクナゲを見出されました。そして、これに京丸伝説にちなんでキョウマルシャクナゲの名を与え『植物研究雑誌』に発表し、天城山のシャクナゲもこれと同じとされました。

 キョウマルシャクナゲは、花はアズマシャクナゲと同じ5数性ですが、枝振りにしまりがないこと、葉が大きく裏に毛がほとんどないことなど、ホンシャクナゲの特徴を持つとして、ホンシャクナゲの変種とされています。本州には東北、関東から山梨県に5数性のアズマシャクナゲ、中国、近畿から中部地方に7数性のホンシャクナゲが分布していて、キョウマルシャクナゲは西日本のシャクナゲとされたのです。その後、山崎博士は天城山のシャクナゲはキョウマルシャクナゲに比べると、葉はやや厚く若葉の表面に白色の綿毛があることに着目し、キョウマルシャクナゲの品種アマギシャクナゲとされました。

 1981年に筆者は京丸山のキョウマルシャクナゲを調査し、花は5数性がほとんどですが6数性の花もあり、6数性の花は花弁、おしべ、子房も6数性になることを『遠州の自然』No.5(1982)に発表しました。この6数性または7数性が混ざることは、アマギシャクナゲやホンシャクナゲでも知られています。山崎博士は5数性と7数性について、7数性が基本で5数性はそれが分化して生じたとされています。そうであれば中間形があって当然です。

 最近、D.F.チェンバレンとF.ドルシ−は日本のシャクナゲ類を @ 古くから存在する群:アズマシャクナゲ、ヤクシマシャクナゲ、エンシュウシャクナゲ。A 新しく展開した群:ホンシャクナゲ、キョウマルシャクナゲ。B 複合的な性質をもつ群:ツクシシャクナゲと3群に分けられると推論しています。この考えの基本になっているのは、花の5数性と7数性の変異の幅です。

 これらシャクナゲの分類は外部形態に基づいています。日本のシャクナゲの系統がどのようであるかについては、遺伝子解析など著しい進歩を遂げている手法を用いるとより明確になるのではないでしょうか。静岡県の花はツツジです。シブカワツツジ、スルガヤマツツジ、オオヤマツツジの由来などツツジに関する課題は山積しています。これらの課題に、若手の方で挑戦される人が出現することを期待しています。

 なお、学名は次のようです。

 Rhododendron degronianum Carr. subsp. heptamerum (Maxim.) Hara
      var. kyomaruense (Yamazaki) Hara キョウマルシャクナゲ
      form. amagianum (Yamazaki) Hara アマギシャクナゲ

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登録日:2003年7月5日


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