巻 頭 言
私たちの手で自然史博物館を創り育てよう

池谷 仙之(NPO自然博ネット理事長)

最終更新日:2003年7月5日


池谷仙之理事長 地球を人の一生にたとえるなら、地球はいま47億歳になります。こんな永い時間、地球は何をしてきたのでしょうか。さぞかし、多くの出来事を体験してきたに違いありません。そして、地球に寿命があるとするなら、あと何年くらい存在するのでしょうか。地球上の生命は、このような地球の歴史のひとこまとして、およそ38億年前に誕生しました。

 この生命が地球上に誕生したときから、生物が地球の環境をつくり変え、地球環境が生物の進化を促してきたように、生物と生物を取り巻く地球の環境は絶えず互いに密接に影響し合いながら今日に至っているのです。現在、私たちが認識している生物種、すなわち、名前が付けられている生物は200万種ほどです。

 しかし、これまでに地球上に現れ、すでに絶滅してしまった化石種や、私たちが直接見ることのできない地下深部や深海底などに生息するまだ名前のない生物を含めると、この地球上にはおびただしい数の生命体が生まれたことになります。これらの生命の営みと、これらの生命を育んできた地球の営みが「自然史」なのです。

 私たち地球人は、この地球の「自然史」を理解し、「生命とそれを取り巻く環境」を大切に守っていかなければなりません。これは21世紀の人類に課せられた最大のテーマなのです。「自然史」を理解することは、身のまわりの自然を五感(視・聴・嗅・味・触)で感じ取ることからはじまり、豊かで神秘に満ちた自然の「ふるまい」に感動し、その自然の「ありよう」をもっと深く知りたいと思う知的活動に他ならないのです。

 しかし、単に「花鳥風月を五感で感じ取る」だけでは、自然の「理(ことわり)」を理解することはできません。自然の神秘とその摂理を深く理解するためには、それなりのプロセスを必要とします。自然を観察し、標本を採集、整理、保管する方法や、さらに学術的に探究する手段などをサポートするのが自然史博物館なのです。

 静岡県下には、すでに100を越す自然史系の学会や研究会、同好会が活動しています。写真や絵画、詩歌、ガーデニング、山登り、フィッシングなど、各種の愛好家集団も広い意味での自然史系の同好会と言えるでしょう。このようなグループに直接参加していなくても、人はみな「自然」を愛し、日々何らかの形で「自然」と深く関わり合っています。

 このような自然を愛する人々の活動を支援し、その活動の拠点となるような博物館を私たちの手で創り育てて行きたい。NPO「静岡県自然史博物館ネットワーク」はこのような主旨で、前身の静岡県立自然系博物館設立推進協議会から変身して新たなスタートを切りました。身のまわりのローカルな自然からスタートして、東海地域、日本列島、西太平洋−東アジア、全地球、そして宇宙にまで広げたグローバルな視点で、「自然の成り立ち」を理解し、再び足もとの自然を見つめてみましょう。

 きっとかけがえのない地球の営みが見えてくることでしょう。そして、この地球がいっそう愛おしく思えてくることでしょう。このような県民の知的活動の場を提供し、それらを支援する体制を整えた自然史博物館を是非私たちの手で創りましょう。


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登録日:2003年7月5日

NPO 静岡県自然史博物館ネットワーク
spmnh.jp
Network for Shizuoka Prefecture Museum of Natural History