会員からのお便り

静岡県立自然史博物館設立推進協議会 御中

発行:2000/09/01

及川忠広


 この度、「しずおか自然図鑑」を拝読いたしました。県内の動植物についてまとめてあるばかりか、県立で自然史博物館を創設したい、といった草の根運動まで展開されていることが記されており、大変興味を持ちました。と同時に、各種の計画案が具体的であることにも驚きました。

 申し遅れました。私は、三島市内在住の会社員、及川忠広と申します。今現在は印刷会社に勤務して糊口をしのいでおりますが、母校の國學院大學では「博物館学」を学び、学芸員資格も取得いたしました。しかし、卒業後、うまく仕官先も見つからず、現在に至っております。それでも、博物館に対するこだわりを捨てることができず、たまの休暇を利用して神奈川県立自然史博物館での友の会活動に参加しております。

 神奈川県立自然史博物館は小田原にあり、ちょうど箱根新道を降りきってすぐの場所にあります。当博物館友の会では、沼津、三島など、静岡県東部からの参加者もおります。これは、静岡県において、市民参加型の自然史博物館がないことも起因しておりますが、車で出かけられる範囲にかなり好条件の館が設置されていることも理由です。「地球博物館」の名を使っている通り、おおよそ、プランクトンから恐竜まで、各種のテーマを扱っている総合自然史博物館として機能しているためでもあります。

 当会の静岡県民会員は、「静岡に博物館ができても、どうせ静岡市内に建てられるのであって、とても東部の人間が通えたものではない」との意見を申しておりました。しかしながら、計画案を拝見しますと、県内各地の自然を把握すべく、地域館の設置も考えていらっしゃるとのこと。これは非常に心強いことであります。

 静岡県は、駿河湾の海底から富士山の頂に至るまで、高度差1万メートル以上もの大自然を擁しています。また、伊豆から浜松に至るまで、大変に長い海岸線を有しています。生き物の多様性もまたしかりで、深海のタカアシガニ、リュウグウノツカイから、アルプスのライチョウまで存在します。全国的にも珍しいこれだけの自然に恵まれていながら、資料の収集・保存・研究・展示・教育を行う博物館が県で運営されていないことは大変な損失と考えます。

 博物館は、教育・研究機関として位置づけられていました。しかし、自然保護活動や、子供たちの週休二日制度導入などの観点からますますその任務は広がってくるものと考えます。
 今回は、静岡県立自然史博物館設立推進協議会への賛同の意志も表明すべくメール申し上げました。微力ではありますが、私自身が持つネットワークも動員させて、貴会へ参加したいと存じます。

静岡らしさ

 去る7月14日、神奈川県立生命の星・地球博物館において、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」を題材にした映画の鑑賞会が開かれました。上映会ののち、関係者でパーティーが行われ、その席において、初代地球博物館館長でいらっしゃった濱田隆士先生とお話しする機会を得ました。濱田先生は現在、福井県立恐竜博物館の館長も務めていらっしゃり、多忙な日々をお過ごしだ。ご挨拶とともに静岡における推進協の活動を紹介し、恐竜博物館見学の希望を伝えたところ、大変喜ばれ、「ぜひ、静岡らしい館を造ってください」とのお言葉もいただいた。

 さて、ここで「静岡らしい」という件について考察してみたいと思います。先に出版された「しずおか自然図鑑」では、おおよそ静岡県内における様々な自然事象を網羅しています。それぞれの分野で研究をなさっている会員の皆さんは、その専門の分野において「静岡らしさ」を感じている事象がおありかと思います。静岡県は、日本全国を見渡しても、まことに希有で壮大なフィールドを持っており、博物的興味の尽きない県です。日本一高い山と日本一深い海。富士山、南アルプス、天城……など、各地に独特の山岳地を持ち、また熱海から浜松にかけて長大な海岸線とを有し、河川の数も多く、生き物についても、高原の鳥から、深海魚に至るまで、多種多様です。

 静岡とは、実に壮大な自然を有し、研究対象はあまりにも広大、多岐に渡ります。この静岡に、自然研究を旨とする博物館が未設なのは、大変な損失です。むしろ、この広大なフィールドにおける資料を従来通りの博物館……、たった一館の建物に収集するよりも、各地の地域をまるごと野外博物館化する「エコミュージアム」の方法を導入すべきではないか、と考えるほどです。

 そこで、たとえば、「これぞ静岡」といった考えのもと、実際に資料の収集・展示を行う場合、会員の皆さんは何を選ばれ、推挙なさるでしょうか。

 富士の裾野の森を再現し、鳥類、ほ乳類の生態展示をしたい。
 柿田川湧水を再現し、鳥類や魚類を。
 天城の清流は?
 南アルプスのほ乳類はどうか。
 遠州灘のアカウミガメの産卵はテーマに入れられないか。
 それならば、天竜川のコアジサシの営巣地は?
 掛川の化石も入れたい。
 浜名湖の豊富な魚介類は? また駿河湾の深海魚を網羅することは?
 フジアザミをはじめ、危機に瀕している植物についてはどうか。
 里山をテーマに、身近な小動物、昆虫類は?

 おそらく「静岡」だけを収集・展示の対象としても実に多彩な内容が期待できるでしょう。自然史博物館というと、どうしても恐竜の骨格を飾ったり、世界中の珍獣を標本として求めていそうなイメージもありますが、静岡ではかえって無用であるような気もしています。先に挙げた通り、県内には我々の手にも余るのではないかという自然が存在しています。県民には、その「そこにある宝物」を再認識してもらう必要があるのではないでしょうか。

 私の考える「静岡らしさ」とは、振り返ればまだ残されている、そんな静岡県内の自然をテーマとすることです。これは静岡市で見た光景ですが、市内には模型メーカーとして全国にも有名なタミヤの本社ビルがあります。通りに面した社屋は近代的なビルなのですが、周囲にはまだまだ田畑が残されています。その上空をアオサギが飛んでいったのです。アオサギが生存するには、餌となる生き物が豊富な河川と田が欠かせません。静岡市街からそう遠くない場所でもまだ自然が存続していることを物語る風景ではないでしょうか。

 静岡の自然を保護し、広く県民と自然について語り合う場として、博物館の設置は強く期待したいところです。


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登録日:2001年09月01日