自然学習・研究機能調査検討会報告
自然学習・研究機能調査検討会の設置とこれまでの経過

発行:2000/09/01

柴 正博


 静岡県では、『静岡県新世紀創造計画(計画期間:平成7年度〜16年度)』の中で、主要施策の一つとして自然系博物館の整備を位置づけ、本県の特性を生かし、学術文化の振興の核となる、自然系博物館の整備について検討することとしています。

 このため本年6月に、静岡県企画部では自然系博物館の構想について将来の展開を目指し、研究や準備を進めるために、『自然学習・研究機能調査検討会』を設置し、博物館に対する県民ニーズ、社会的要請、博物館の運営・展開について検討を開始しました。この検討会は、できれば来年度に自然系博物館の基本構想委員会を設立するための検討を行う役割があり、これまで推進協議会で行ってきた活動によって具体的に県企画部が動きだしたものと言えます。

 この検討会の当初のテーマとしては、「今後の博物館に期待するもの」、「博物館の目指す方向」、「インターネット等のITを活用した博物館の展開」、「博物館におけるネットワークの活用と県民との協働のあり方」、「早期の博物館活動の展開」が挙げられていました。しかし、すでに3回の検討会が行われた後、「今後の博物館に期待するもの」と「博物館の目指す方向」にしぼって検討を行い、11月までに自然系博物館に対する県民ニーズのアンケート調査も踏まえて、中間答申を知事に提出する方向が出されました。中間答申については、来年度の予算要求に基本構想検討委員会の設置を促すことも、目的の中に含まれています。

1.検討会の委員

 検討会委員は、「ニーズ」や「運営」、「新技術」などという面から、15名の委員が選出されています。
  • 県民・一般利用者のニーズ:谷澤久美子(静岡リビング新聞社フリーライター・一般利用者)、大久保あかね(旅行雑誌じゃらん研究員・一般利用者)、木塚泰弘(静岡文化芸術大学デザイン学部教授・ユニバーサルデザイン)
  • 研究者のニーズ:三宅 隆(静岡市職員・日本野鳥の会静岡支部・動物)、宮崎一夫(浜松医大職員・遠州自然研究会・植物)、延原尊美(静岡大学教育学部助教授・静岡県地学会・地学)
  • 社会的要請:森田勢津子(静岡県教育委員会社会教育課)、高林恭子(浜松科学館館長)
  • 博物館の運営:坂井知志(常盤大学コミュニティ振興学科助教授・博物館学)、柴 正博(東海大学自然史博物館・運営)(副座長)、山田辰美(富士常葉大学環境防災学科助教授・環境教育)(座長)、小松幸子(NPOグランドワーク三島・協働)
  • 博物館に導入すべき新技術:望月達也(静岡文化芸術大学デザイン学部助教授・情報提供のあり方)、三部靖夫(NTTデータ開発本部技術開発部長・情報提供システム)、白旗保則(グローバルデザイン代表取締役・ホームページ製作)
 検討会では、月に1度集まる検討会だけでは議論や連絡が十分になされないので、電子メールを利用したメーリングリスト(リストに登録されている人がそのアドレスにメールを送ると登録されている全員にメールがとどくシステム)で意見交換や連絡を行っています。

2.第1回検討会の内容

 静岡県企画部では、自然学習・研究機能調査検討会のホームページを公開していて、そこで検討会の目的や議事内容を見ることができます。また、検討会や自然系博物館に対する意見や提案などを書き込めるページもありますで、ぜひみなさんからたくさんの意見をいただきたいと思います。

 これまでに、3回の検討会が開催されました。第1回(6月7日)は初顔合わせということから、委員の自己紹介につづいて、「今、なぜ博物館が必要か」ということと、それに関連して博物館の機能について議論されました。第1回の議事概要はホームページでも公開されていますが、ここでも掲載しておきます。

【第1回自然学習・研究機能調査検討会の議事概要】
1 博物館の検討の方向・基本的な考え方
  • 財政状況が厳しい中、「今、なぜ必要か」ということをはっきりさせる必要がある。
  • 博物館をつくる目的が何であるかが大事で、博物館は目的を実現する手段に過ぎない。
  • 一般県民、研究者、行政のニーズをしっかりと把握する必要がある。
  • 研究者のためだけの博物館とならないように、県民の望む声にも応えていく必要がある。
2 博物館は何のためにつくるのか
 (1) 標本資料の適切な収集・保管のために博物館がある。
  ア なぜ収集・保管するのか
  • 岩石や動植物等の標本資料が散逸し、県外に流出しつつある。
  • 標本資料は、いったん失われてしまえばもう再生できない。
  • 標本資料は静岡県の歴史の積み重ねを示す、県民の貴重な財産であり、次代に引き継いでいく責任がある。
  イ なぜ博物館で収集・保管するのか
  • 標本資料は現在、研究者個人によって収集・保管されているが、個人の力には限界がある。
  • 収集・保管は困難な作業で、専門的な設備・技術を必要とする。
  ウ 標本資料はどんなことに役立つのか
  • 研究者にとっては、多くの情報を持つ、研究には無くてはならないものである。
  • 標本資料を活用することは、県民が自然を理解するための手助けとなる。
  • 自然環境の保全は21世紀の重要な課題で、それを進めるための科学的なデータとなる。
 (2) 子供たちを自然へと誘導していくために博物館がある
  • 自然離れ、理科離れの原因として自然情報の発信し、子供たちの疑問に答える場所がない。
  • 自然へのアプローチの仕方を伝える必要がある。
 (3) 静岡県の持つ魅力をきちっと紹介するために博物館がある
  • 魅力ある自然を記録、整理し分かりやすく示す必要がある。
  • 静岡はこんなところであるという基礎的な情報を集約する必要がある。
  • ふるさと学習(地域、自分達のふるさとの魅力の理解)を進める必要がある。
 (4) 環境教育や自然環境の保全のために博物館がある
  • 自然保護活動を誘導する拠点が必要である。
  • 自然保護意識を普及する必要がある。
  • 地域の自然を正しく理解するために欠かせない科学的データを提供する必要がある。
  • 自然との共生を今後どうしていくかを考える基礎資料を集め、研究する必要がある。
 (5) 社会教育施設としての役割
  • 県民の生涯学習意欲に応える必要がある。
  • 週休5日制と対応して総合学習など、学校教育とも連携する必要がある。
  • 環境教育の素材や情報を提供する必要がある。
3 博物館への希望
  • 多様で豊な自然に恵まれた静岡県全体が自然の博物館であり、我々の目指す自然史博物館は県民をこの自然の中に招き入れる契機となるものとしたい。
  • 実体験を重視し、既存の自然体験施設や団体、活動している人たちとのネットワークで実体験への関わりを可能としてほしい。
  • ユニバーサルデザインの視点からは、できるだけ手で触れる展示が必要であり、視覚に加え、聴覚、触覚の3つの感覚で体験できるものにしてほしい。
  • 子供から大人までの多様なレベルの要求に応えられるものにすること、 特に小・中学生の疑問に答え、自然へのアプローチの仕方を教えることができるような教育機関としてほしい。
  • 静岡県は広いことから、既存の施設をサテライトとして使うことや、インターネット等を使い県民がアクセスし易くしてほしい。
  • 一般県民からすると、標本資料から実際の自然を理解することは難しいため、それらの生息環境、自然界での位置づけや環境理解に繋がる情報の提供とそれらの提供の仕方を工夫してほしい。
  • 研究者の願いとして、自分たちに続いてくれる自然大好きな子供が育つような博物館にして欲しい。
4 バーチャル博物館
 (1) バーチャル博物館の可能性
  • インターネットを活用し、教育・普及に役立てることができる。
  • 大きな宣伝効果がある。
  • 立体視技術の活用により、実際には眼にすることができないものを見せることができる。
 (2) バーチャル博物館の限界
  • ・バーチャル博物館には、その中身となる標本資料とそれを調査・研究する人材が必要である。
  • ・県庁は現状では標本資料も人材も無いので、バーチャル博物館をすぐにつくることはできない。
 (3) バーチャル博物館建設の提案
  • 県内には実質的に博物館活動をしている個人研究家や自然研究団体がある。
  • 個人研究家や自然研究団体の協力を得て、標本収集や資料研究を行うことができるよう、インターネットを使いネットワークしたらどうか。
  • 県が「博物館準備室」を設置し、組識化、ネットワークの構築と管理、データベースの作成、標本の管理などを行っていけば、博物館の基礎ができ、インターネット上のバーチャル博物館はできるのではないか。
  • 「博物館準備室」を中心に博物館活動を展開し、それをベースに10年くらいかけて博物館建設を計画してはどうか。
3.第2・3回検討会の内容

 第2回検討会(7月7日)では、県内の自然系関連施設での教育活動と関連した自然系博物館の機能や目的がさらに議論されました。しかし、県民ニーズの方向性をある程度客観的にとらえる必要があるということから、県民へのアンケート調査を実施することを検討することになりました。第3回検討会(7月26日)では、県民アンケート調査の作成・分析に協力いただく静岡大学の土居先生に、アンケート調査についての説明を聞き、アンケート案について検討しました。また、博物館の目的や機能、活動について夏休み中にさらに検討することを宿題としました。

 アンケート調査については、2647人(世帯)の県民へ9月はじめに調査票を郵送して9月末までに回収し、10月に分析する日程で、博物館の必要性とその機能について聞くとともに、質問項目の中に公共事業の費用対効果分析を含めた形になりました。また、アンケート調査の際には、アンケートに同封して、「博物館に関する情報」や「静岡県立自然系博物館のイメージ」を提供し、それを参考にしてアンケートに答えていただくようにしました。なお、費用対効果分析では、その事業に回答者が税金として支払ってもよい金額を聞く形になりますが、これはあくまで県が行う政策評価データではなく、検討会としての県民ニーズを把握するひとつデータとして活用したいと思っています。

 これまでの3回の検討会やメーリングリストで出た博物館の目指す方向に関する意見をまとめますと、以下のようなものになります。

(1) 博物館の必要性・目的
  ア 標本資料の収集・保管
  イ 自然環境の調査研究(現状の自然把握)
  ウ 子供たちの自然への誘導
  エ 静岡県の魅力の紹介
  オ 環境教育・自然環境の保全のためのシンクタンク的機能
  カ 社会教育施設としての役割
  キ 県内研究グレープ、研究機関、博物館、自然観察施設のネットワークの核
(2) 博物館に必要な機能や活動
  ア 基本機能 「収集・保管」、「調査・研究」、「展示」、「普及」
  イ 機能や活動に関するキーワード

 体験、バーチャル、環境教育、情報、サテライト、ネットワーク、五感に訴える、多様なレベルの要求に応える、自然と環境、子供から大人までの多様なレベルの要求に応える、総合学習、実物・体験、バーチャル、フィールド、静岡県全体が博物館、研究グループの交流の場、拠点・核、サテライト、人づくり、快適空間静岡、静岡型、後発型、情報、研究と教育普及を両立させる必要はない、インターネットと倉庫と宅配便、自然へのアプローチ、ネットワーク、五感に訴える、ユニバーサルデザイン、国際化、発展途上国への移動博物館、教育ソフト開発など。

 他にもあるかとは思いますが、第4回検討会では、博物館の機能と活動についてさらに検討し、「今後の博物館に期待するもの」と「博物館の目指す方向」を示した報告書作成に向けた、具体的な作業に入ることと思います。そこで提案される自然系博物館のイメージは、おそらくひとつの限られた博物館像でなく、いろいろな機能が重なった博物館のイメージにちがいないと思います。私たち検討会では、県民ニーズをとらえ、自然系博物館の機能面での多様な展開を考えて提案し、つぎに設置される自然系博物館の基本構想委員会に、実際の博物館構想をゆだねることができたら、と思っています。


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登録日:2001年09月01日